泣けるひみつ
中学生の頃、MARVEL映画ならマイティソーが好きと言ったら友達に笑われた。
まだアベンジャーズの一作目公開前で作品数もかなり少なかったが、当時"最高の日常系"じゃん!ととこめかみに稲妻が弾いた。
アメコミ仲間のその友人はコスチュームがダサい、ストーリーが退屈と言っていた。確かに神話とあまり接点のない生活を送っている我々にはあまり馴染めず、フィクション感は強かった。
しかし、科学者であるジェーンと文化の違いに戸惑いながらも距離を図っていく、そんな日常に見える悪ふざけにはかなり"びびび"があった。
アベンジャーズ公開後にMARVEL、アベンジャーズというワードは市民権を得ていき、今や共通言語として使われる程になった。
するとMCU(マーベルのシリーズ)に対して「ヒーローものでしょ?」「強い人間が正義を振りかざす感じはいいや…」「あれは別に映画じゃない」と不満を垂らす人も当然出てきた。
そして、そう言うことを言う人に限って作品を一秒たりとも見ていない!!!
滑稽オブ滑稽だな!!!などと言ちる我を胸中に忍ばせながら、そうかそうか〜などと返して過ごした。
あんなに"大衆向け映画"の中で悪ふざけしまくっている作品はないのではないか。
そして、見る度に思うのは「スカッとする<辛い…」である。
それから、毎度更新される実験みたっぷりのアクションシーンのカッチョ良さたるや…。
銀幕の向こうから帰される度に「やばいもん見ちまった…」と一人座席でぽけ〜としてしまう。
向こうの世界線に生きる登場人物に思いを馳せ、上映後のスクリーンにはプロデューサー(ヲタク)ケヴィンファイギのニヤつく表情がうっすら浮かびあがる。
「ソー ラヴ&サンダー」を吉祥寺のオデヲンで鑑賞後現在私はマックにてこの文章を打っている。
普段から其々の考察を交わし合うMCU沼の仲間と最近は見ることが多いのだが、今回は一人で観に行った。
かなり久方ぶりに劇場の窓口で券を予約したのだが、この体験こそに思い入れがあることに気づいた。
透明板の向こう側のお姉さんに作品名を伝えて「Bの〜でお願いします」と伝えると、モニターのD席にポッと明かりがついて「あ、すみませんBです」というやりとり。
もう何年振りなんだろうか…。
あの中学の頃の高揚の幅を思い出した。
今年は楽しみにしていた作品の公開が集中しておりかなりの頻度で映画館に通っている。
そして、その度に私はマスクを濡らしている。
別に涙もろいわけでもなく、合わないな思う映画もあるのだが、ここ最近観た映画はどれもグッとくるポイントがあり、うううと涙ぐんでしまう。
しかし、自分でもその泣けるポイントが不思議なのだ。
所謂感動シーンではなく、鑑賞後の感想戦で「え、そこ!?」と突っ込まれることがよくある。
映画の尺でそれやる!?絶対にこの絡みいらんでしょ!!と思わず感じてしまう、くだらな〜い登場人物同士のヨブンなユーモアさ。
そして、観たことのないラディカル過ぎるカメラワークのクールさ。
それから、生命を感じる様なアニメーション表現のエモーショナルさ。
尚も、予告からは全くも想像もできなかった展開へと開けていくワクワクの瞬間。
そして時にはを今この作品が…この今…。スクリーンで観れているんだ…ありがたすぎる……」とスーッと涙が頬を走る時だってある。
ポジティブな、嬉しい気持ちともちょっと違う…、なんというのだろうか…。
尊さ…?
ぱちぱちぱちとこめかみで何かが弾ける。すると私は涙ぐんでしまうのだ。
先程も記述したがMCUは見る度に感動もあるが、辛さが確実に増える。
だからこそ日頃からふと思い出しては考察を図り、信頼できるMCU中間とそれを共有をし合い、時に師匠と仰ぐとある侍へ尋ねてみたりして、いつか彼らが報われる期待を持ちながら公開される日をただただ待つ。それだけなのである。
だからこそ、原作情報、そして考察動画を漁ってしまう。
そんな中とある動画をみているとチャンネルの主は言っていた。
"人間は本当に面白いものを見ると脳が揺れて揺れて、脳だけじゃ処理できなくなって涙と汗が溢れ出る"。
あああ、これかもしれない。観た映画も、先日観たライブもそうだ。
かっけぇぇ…と思った時にスーッと流れる。
だからこうやってその感動の整理、もっと言えば"びびび"の正体を見つけるために私は言語化したいのかもしれない。
脳科学について記せる程の知識はないが、前に読んだ紙面でどうやらこの感覚において「サリエンシー」というワードが鍵を握っているようだ。
(サリエンシー: 精神生活にとっての新しく強い刺激。興奮状態をもたらす未だ慣れていない刺激。)
私は自身の感動ポイントの謎の正体を明かしていきたい。
また、"尊さ"というワードも鍵な気がしている。
そして、あなたの感動ポイントも気になる。
ソーも、映画高木さんも、映画ゆるキャンも。
全部それぞれに対する"好き"という気持ちの一線が作品に通っており、最高の映画だった。
あぁ、バズりや仕掛けのために作られた世界は退屈すぎるぜ。
大衆の中で自身の偏愛を普遍的な愛に変換して放たれるエンタメに私はとても惹かれる。
ああ、ソーもジェーンも皆んなきっと無事でいてくれ。
オデヲンのカウンターのお姉さんも。
私はバンドの新譜リリースに向けて頑張るところ。