22-07-31 シルエット
あ、アリだ。
昼から唐揚げを食べていたら、天板の上でお菓子のカケラを運ぶアリと目があった。
やば。
ゴミ箱を目線を下ろした。
あら、アリたちだ。
さては貴様…!?とカーテンを捲り上げ窓際を確認すると、えっさほいさと行列をなすアリたちと目が合った。
侵入経路確保!直ちに私は埃被った殺虫スプレーを手に取り、狙いを定めた。
しかし、ちょっと待てよ。
これは、一国を滅ぼすということなのか。
この炎天下の最中、これまでの経験と知恵を凝らして、ようやく辿り着いたユートピア。
中には愛する者を救うため、自己犠牲も払い働く彼らの生命を、己が城塞に踏み込んだという理由だけで殺めてしまって良いのだろうか。
私はスプレーを撒いた。
天板の裏側も、ゴミ箱も、侵入経路にも。
スキマや全てに行き届かせた。
悪者だ。死骸を払ってゴミに捨てた。
私は食に満たされた状態で、何事も無かったかの様に支度をした。
◯
茹でられているのかと思わんばかりの暑さ。
重い鞄を肩に下げ、いつものファミレスまでの道を引き摺るように行く。
すると、目の前に見覚えのあるビッグシルエットが…。
野生の澤部さん!!!!!
沸騰するアスファルトの上を、さささささと走って追いかけた。
イヤホンをされていたから、もし聞こえたら…!具合のボリュームでお声かけしてみたら、振り返ってくださった。
今日から出所ですわ〜と仰られており、少しだけ立ち話をした。
そうなのだ、澤部さんと私はぐうぜんにもめちゃくちゃご近所なのだ。
(毎度、ギャルゲーか…!?と思うようなタイミングでばったりお会いする…)
ひとまず、お元気そうで本当に何より。。
また、落ち着いたらご飯でも行こうとお別れした。
◯
今日は、今日中にコミケ用の漫画を完成させなければならない。
中学の頃から一度は漫画を作ろうと思っていた野望が果たせる時が来たのだ。
バイトの先輩とのコンピ(?)であるから、ある程度の緊張感もある。
そして、MURAバんく。の新譜関連、それからリリースに関するやりとり、またその他関わっているもの周りの連絡を全部並行しながら、一つずつ解決していく。
其々がそれぞれに非常にワクワクする。
だけども時に、誰か助けてくれ〜と半べそをかきそうになるが、帰ったら絶対に助平なもんみてやるんだから!!と真っ直ぐ向き直す作業を繰り返した。
只今、CDの受注生産を行なっており、最終日の本日、とてもありがたい事にまた何件か予約のメールを頂けた。
その文面には励みになるお言葉が添えられており、待ってくれてる人が、おる…!!とまさに励みにさせて頂き、感謝の念を飛ばして作業に戻った。
そして、漫画はネームのまま進んでいない。
とあるCDのコンピのために弾き語りの歌詞を考えていた。
作業をしながら漫画制作は自分にはできなかった。
もうそれは深夜の自分に任せようと、歌詞をひたすら考えた。
しかし、できない。ゴールの用意されていない暗めな曲しかできない。
ああーーーーーーとなりながら、蒸らしまくったアールグレイをくーーっと飲む。
もうずっと野菜ジュース、炭酸水、濃厚アールグレイの循環だ。
飲み物が無くなりドリンクバーへ向かうと、曲がり角のカウンターに腰をかけた、見覚えのあるビッグシルエットが…!
ファミレスの澤部さん!!!!!!!
ノートにペンを走らせていたため、これはそっと気づかぬ様にそ〜っと行こうと、両手の飲み物を補充した。
そして、すすすすすと戻ろうとしたら「お!まだいるとは!」と気づいてくださった。
その時はどうやら漫画を開かれていた。
何の漫画か気になったが、なぜかその時お聞きするのは無粋かしらと思い「ここ、割といい曲流れたりします、よね〜」という、なんとも緊張の垣間見える発言をしてしまった。
今後拝聴するであろう曲の生まれる、いわばドキュメントの場に遭遇しているということだ。
流石に緊張するぜ…。
それから、また自分のテーブルに戻り、うーーんうーーんと頭を唸られ、届いた連絡を確認してその返信を行う。
そして、トイレへの行きしなに、曲がり角のカウンターに腰をかけた澤部さんをちら〜〜〜っと覗き見ながら、すすすと戻る。
気づけば、9時間ほど経っていた。
今後のワクワクドキドキなスケジュールは無事にそれぞれ決まっていったが、曲は全然できていない。
全然できないんだが!?!?
とは言え集中する。
紙の向こうに心で見た情景を思い浮かべる。。
できるだけ引き算をするような感覚で。。。
。。。。。
っは!!
紙の上に影が動いている!?
ふと顔を上げると、目の前にはもう覚えてしまったビッグシルエットが…!
腰あたりでピースをする澤部さん!!!!!
ニンニン!と忍者のポーズをされて、お先に〜!と仰ったので、私はもう限界なほどに店内が寒く指が悴んでいたので便乗ドロンすることにした。
すると、私の伝票をスッと取り出し、一緒に会計をしてくださった。ありがとうございました…。
え、全然頼んでないじゃん!とアイスとセットドリンクのみで粘り続けていたのがバレてしまい、やべ!と恥ずかしかったが、本当に頭が上がらない。
それから店を出て少々立ち話をした。お互いにそれぞれの納期に迫られており、また落ち着いたらご飯へ行こうと約束をしてお別れした。
外の気温は丁度良く、去る文月に良い思い出ができたなあと家路を歩いた。
◯
カーテンをすっと捲り上げた。
すると、そこにアリたちの面影は一切無かった。
ちょっと切ない気持ちになりつつも、パソコンを開いて特典用トラックの編集をした。
そして、現在27:50。
これから漫画の仕上げだ。
先輩にはあと少しと伝えてある。大嘘だ。
あと全部だ!!!!!私は悪者だ。
そうだけれども、ちゃんと完成させたいと思う。
CDも焼きながら。
いつか誰かの手に届くと念を込めながら。